どうも、ユウ吉(@GAMEWALKERZ)です。
今日の講義テーマは、ズバリ 「オタク魂が世界を動かすって本当か?」。
想像してみてください。
部室でダラダラ撮った自主映画が、なぜかアカデミー賞を獲ってしまう──
そんな「ありえない成功」が現実に起きたら?
「いやいや、そんな話あるわけないだろ」と思ったそこのあなた。
あるんですよ。しかもゲーム業界で。
それが、中国発のゲームブランド「miHoYo」(現HoYoverse)。
上海交通大学の学生寮から始まった小さなサークル活動が、いまや世界を股にかけるゲーム企業にまで成長しました。
この歩みは単なるシンデレラストーリーではありません。
「好き」を突き詰める情熱が、どうやって「戦略」に化けるのか──その生きた教科書なんです。
HoYoverse躍進の裏側にある「開発サイクル」と「成功モデル」を解き明かしていきましょう。
miHoYo創業のリアル──学生→“Tech Otakus”ブランド成立まで

2012年、上海交通大学に在学中だった
- 蔡浩宇(Cai Haoyu)
- 劉偉(Liu Wei)
- 羅宇傑(Luo Yuhao)
この3人が立ち上げたのがmiHoYoです。
きっかけは、「自分たちが遊びたいゲームが存在しないなら、自分たちで作るしかない」という、ある意味オタクらしい逆ギレ精神。

「なければ作ればいい」って、オタク辞典で一番太字の項目です。
スローガンが文化になった


創業当初から掲げたのが、「Tech Otakus Save the World」。
ただのキャッチコピーではなく、開発哲学と企業文化の核になりました。
彼らのいう「世界」は、地球全体というよりもゲーマーとオタクコミュニティ。
その“世界”をゲームで救おうという姿勢が、初期からブレずに続いています。
最初の挑戦から得たもの


初期作品はインディー色の強い小規模タイトル「FlyMe2theMoon」を開発。
バルーンファイト的な動きでステージを攻略する横スクロール型のアクションゲームです。
初期作品にもかかわらず、アクションやギミックの完成度が高くユーザーからも一定の評価されている作品です。
この頃から、miHoYoは次のことを意識してやっていました。
- 少数精鋭で回せる開発サイクル
- ユーザーの声を吸い上げる習慣
この経験が、のちの「崩壊」シリーズ成功の土台になります。



ところで、miHoYoってどんな意味なんだ?中国語?



miは初音ミク、HoとYoは蔡浩宇(Cai Haoyu)と羅宇皓(Luo Yuhao)、2人の設立者から取っているんだとか。
- 文化形成:創業時スローガンが企業文化に直結
- 開発サイクル:小規模→改善→次作、のループを高速で回す手法
- コミュニティ重視:初期からユーザーとの距離感を意識した設計
崩壊シリーズから原神へ──開発サイクルと成功モデルの構造分析
崩壊学園:2Dから始まる世界観構築


2014年、スマホ向けにリリースされた「崩壊学園」は、2D横スクロールアクション。
基本無料+アイテム課金という中国市場で当時主流のビジネスモデルを採用しました。
この時点で注目すべきは“世界観の先行投資”。
後のシリーズや原神にも繋がるキーワードやキャラクターデザインの原型がすでに存在していました。



「1作目から伏線を仕込む」というのは、マンガだと打ち切りリスク高めですが、ゲームだとシリーズ展開の布石になるんです
崩壊3rd:技術と演出の飛躍


2016年の「崩壊3rd」は、フル3Dアクション+アニメ調グラフィックという当時のスマホゲームではかなりの挑戦。
ここで確立したのが、
- セルルック3Dの表現技術
- リアルタイム戦闘と演出の融合
- ストーリーテリングの重視
特に目立ったのが、3Dアニメーションの完成度。
従来のアニメ調3Dゲームではどうしても残ってしまう「ポリゴン感」や「ぎこちなさ」が、ほとんど感じられません。
キャラクターの動きは自然で、髪や衣装、物理現象の揺れまで違和感がなく、「アニメがそのまま動いている!」とユーザーを驚かせました。
ここで一気にファン層を掴んだのも必然といえるでしょう。
さらに、キャラクターガチャ+イベント更新という長期運営の基盤を完成させました。
・崩壊3rdは中国国内での人気を土台に、日本・韓国・北米へほぼ同時展開
・初期から多言語対応チームを組み、イベントやSNS施策も各地域でローカライズ
・これが後の「原神」のグローバル即日リリース戦略の原型に
原神:シームレスオープンワールドと経済モデルの完成


2020年リリースの「原神」では、これまでの資産とノウハウをすべて集約。
特に注目すべきは、
- シームレスオープンワールド設計
- マルチプラットフォーム展開(スマホ・PC・PS・クラウド)
- キャラクターコンテンツ化による二次創作エコシステム
また、ガチャによる収益だけでなく、長期的なブランドIP化を見据えた運営が行われています。
原神の開発費は約1億ドル(約110億円)とも言われています。
スマホゲームとしては異例の規模で、初月の売上はそれを一気に回収するレベルでした。
- 技術的積み上げ:2D→3D→オープンワールドと段階的に拡張
- 世界観継承:シリーズをまたいでキャラやモチーフを繋げる
- 運営モデルの最適化:崩壊3rdで確立したガチャ+イベント更新を原神でも踏襲
- 同時グローバル戦略:翻訳・イベント同期で世界同時にファン層を広げる
原神の世界戦略と差別化構造──ゼルダ比較とクロスプラットフォーム展開
原神はリリース直後、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」に似ているという声が世界中で上がりました。
しかし、その後の展開を見ると、原神は“似てる”を“強み”に変える戦略を持っていたことがわかります。
ゼルダとの比較:見た目は似ててもゲーム性は別物


まず、共通点として挙げられるのは以下の3つ:
- セルルック調の美しいグラフィック
- 広大なオープンワールド
- 探索を促す環境ギミック
しかし、プレイ構造は大きく異なります。
ゼルダはシングルプレイ+買い切り型、原神はオンライン運営型+ガチャ課金。
つまり、開発思想がそもそも違うんですね。



「同じ食材でも、フレンチになるか中華になるかはシェフ次第」ってことです



似てるってことで話題になり、爆発的に浸透したのも事実だ!
差別化戦略の中核:キャラクターコンテンツ化


ゼルダは主人公リンクとゼルダ姫が軸ですが、原神はプレイアブルキャラが何十人も存在し、ガチャで獲得・育成します。
- ファン層がキャラクターごとに細分化
- SNS・二次創作・コスプレ市場への波及
- イベント更新で常に新しい話題を提供
このキャラクター推し文化の醸成が、ゼルダとの差別化において決定的でした。
2025年8月時点で、原神のプレイアブルキャラクターは80体以上。
毎バージョンごとに新キャラや復刻キャラが追加され、長期的なファンの離脱防止に繋がっています。
クロスプラットフォーム展開:プレイヤー接点の最大化


原神はリリース初期から、
- スマホ(iOS/Android)
- PC(Windows)
- PlayStation 4/5
- クラウド版(GeForce NOWなど)
で同一アカウント・同一データを共有可能にしました。
これにより「いつでもどこでもプレイ」が可能となり、生活リズムにゲームを組み込みやすくしています。
特にスマホ+家庭用ゲーム機の両立は、ゼルダにはない強みです。



ゼルダBOTWの平均プレイ時間は約50〜100時間(DLC除く)と言われていますが、原神はサービス型ゲームのため、数百〜数千時間遊ぶプレイヤーも珍しくありません。
- 似てる部分を利用して新規ユーザーを引き寄せた(ゼルダ的世界観)
- 遊び方と収益モデルで差別化した(ガチャ・イベント運営)
- クロスプラットフォームで接触頻度を最大化
- キャラクターをIP化し、ゲーム外でもブランド価値を維持
HoYoverse構造論──グローバル展開とローカライズ戦略
数々のヒット作を生み出し、今や破竹の勢いを誇るHoYoverseですが、気になることはありませんか?
「どうやって中国発のゲームが世界を席巻したのか」
その秘密は単にヒットゲームを作っただけじゃなく、企業そのものをグローバル対応に作り替えたんですね。
HoYoverseとは何者か


2022年、miHoYoは海外ブランド名として「HoYoverse」を発表。
これは単なる名前変更ではなく、中国国外でのブランド受容性を高めるための戦略的リブランディングでした。
- 「miHoYo」だと中国企業色が強く、国際的に発音もしにくい
- 「HoYoverse」は「広大な世界(Universe)」を連想させ、ゲームIP群の総称として使いやすい
この段階で、彼らは単一ゲームメーカーではなく、IPワールドの提供企業として動き始めたわけです。
グローバル展開の骨格


HoYoverseの展開は、以下の4つの柱で成り立っています。
- 全世界同時リリース
→ 中国・日本・北米・欧州など主要市場でほぼ同時にリリース - 現地法人の設立
→ シンガポール、モントリオール、ロサンゼルス、東京などに拠点 - 多言語同時対応
→ 英語、日本語、韓国語、フランス語、ドイツ語、タイ語…計13言語以上 - 文化圏ごとのマーケティング調整
→ 例:日本では声優イベント、欧米ではTwitch配信・eスポーツ展開
2025年現在、HoYoverseは世界20以上の都市に拠点を持っています。
この規模は、AAAゲーム企業のUbisoftやEAに匹敵します。
ローカライズ戦略の深さ


単なる翻訳ではなく、カルチャライズ(文化適応)に近いアプローチを採用。
- テキスト翻訳+文化的背景の調整
→ 中国神話由来の表現を西洋圏では寓話調にアレンジ - 音声ローカライズの重視
→ 各言語でトップクラスの声優を起用(日本語版は人気声優を多数) - 地域イベントの専用化
→ 日本では秋葉原ポップアップ、北米ではアニメコンベンション出展
成功の理由:同一体験の共有


この戦略の最大のポイントは、世界中のプレイヤーが同じタイミングで同じ体験をできること。
アップデート日やイベント開始日が統一されているため、SNS上の話題が国境を越えて同時発生します。



ゲームの感動は“生もの”だから、鮮度を落とさず届けるのが勝負。
HoYoverseの主力タイトルは、ほぼ6週間ごとの大型アップデートを維持しています。
このテンポ感は、プレイヤーを飽きさせず、SNSでの話題性を持続させる重要要因です。
- ブランド名変更で中国色を薄め、国際的な親和性を獲得
- 同時リリース+現地法人でローカル対応力を強化
- 翻訳を超えた文化適応=カルチャライズ戦略
- 世界同時体験によるSNSバズの最大化
運営構造としての「中毒性」超越──ガチャ設計をどう文化化したか
ゲームの課金設計という少し生々しいテーマですが、HoYoverse流だとただの搾取で終わらない。
「ガチャって悪いもの?」という議論に真正面から突っ込みます。
文化として定着させる仕組みが見えてきます。
「中毒性」だけではブランドは持たない


ガチャはプレイヤーの心理をくすぐる強力な仕組みです。
- 希少キャラ・アイテムが低確率で出る
- 「あと1回で出るかも…」という期待感
- 限定期間による焦燥感
これらは短期的には売上を爆発的に伸ばしますが、中毒性頼みはブランド寿命を縮める。
HoYoverseはここを理解し、ガチャを“文化”として楽しませる構造を作り込みました。
文化化のための4つの仕掛け
- キャラストーリーの深堀り
→ ガチャで出た瞬間がスタート地点。そこから専用クエスト・ボイス・世界設定を開放 - 復刻イベントの制度化
→ 限定キャラが将来的に復刻される前提で安心感を提供 - 祝祭化されたアップデート
→ 新キャラ実装時はPV、音楽、声優コメント、リアルイベントまで一斉展開 - コミュニティによる自発的盛り上げ
→ ファンアート、配信、考察動画など二次創作の促進
原神では人気キャラの復刻は約1年周期で行われることが多いです。
このため「推しが引けるまで待つ」という長期的なプレイ動機が生まれます。
多くのゲームはガチャ=課金圧の象徴ですが、HoYoverseは新キャラ実装をお祭りに変える。
SNSでは「〇〇ガチャの日」がトレンド入りし、配信者は実況をし、ファンはコスプレやグッズを制作。
つまり、ガチャはイベント体験の一部として定着します。
ガチャの心理的デザイン


HoYoverseは確率や天井(必ず出る回数)設定にも工夫があります。
- 天井システム(例:90連で必ず星5)で課金の見通しを確保
- すり抜け後の保証で不満を軽減
- 複数天井の統合管理で長期的な達成感を提供



要は「負けても次につながる設計」になってるんだな



故に沼にハマってしまうプレイヤーが続出するんですね
原神の星5キャラ排出率は0.6%ですが、90連で天井、かつすり抜け後の次回は確定。
この「数学的な安心感」が長期プレイヤーを支えています。
- ガチャを単なる射幸性から、物語・文化・祭りに昇華
- 復刻とイベントで長期プレイ動機を確保
- 天井システムで心理的安全を確保
- コミュニティを巻き込み、自発的に盛り上がる場を形成
HoYoverseの未来戦略構図──仮想生活圏とAI技術で拓く次の10年
ここまで5講分かけてHoYoverseの過去と現在を解剖してきましたが、さいごは未来の話です。
キーワードは3つ──
AI、メタバース、そして哲学
この3つが交差する地点に、HoYoverseの次の10年が見えてきます。
10億人が住みたくなる仮想世界──メタバース構想の中核


HoYoverseは、2030年までに「10億人が住みたくなる仮想世界」を構築するという壮大なビジョンを掲げています。
これは単なるオンラインゲームの集合体ではなく、エンタメ・文化・交流が交錯する“仮想生活圏”を目指すもの。
崩壊、原神、スターレイル、そしてゼンレスゾーンゼロと続くヒット作群は、すべてその構想を支える“入り口”として位置づけられています。
常的に帰ってくる「バーチャルの街」を提供することで、メタバース的なコミュニティ形成を狙っています。
AIとクラウド技術による次世代体験


AIとクラウド技術を駆使し、NPCがプレイヤーにリアルタイムで応答する世界が見据えられています。
パーソナライズされたUI、物語の自動生成、キャラ同士の自然な対話──
体験そのものを進化させる土台が整いつつあります。
創業者・蔡浩宇氏はカリフォルニアにAIスタジオ「Anuttacon」を設立。
初のゲームタイトル「Whispers from the Star」を制作し、近未来型のゲームジャンルとして注目を集めています。
大規模言語モデルを活用し、リアルタイムNPC生成やワールド生成を研究するプロジェクトが進行中です。



NPCがプレイヤーと自然に会話する未来が実現するかもしれませんね
未来の遊び場を設計する企業へ
HoYoverseはもはやゲームスタジオではなく、仮想生活圏を設計する未来企業になりつつあります。
メタバース構想、AI技術、グローバル展開、異分野投資──これらはすべて「次の10年」に向けた布石。
ゼンレスゾーンゼロが示した新しい遊び方も、その未来を先取りする実験場といえるでしょう。
HoYoverseはゲーム以外の分野にも積極的に投資しています。
その一例が、感情AIの研究です。ゲーム世界に「心」を持つ存在を導入する試みとも言えます。
さらに異分野投資としてロケット開発にまで参入。
もはや「ゲーム企業」ではなく、未来のテクノロジーを総合的に開発する企業へとシフトしている証。



オタク魂から始まった物語は、いまや世界規模の“新しい生活圏の創造”になっているんだ
まとめ
本記事では以下の6つのテーマを通して、HoYoverseの戦略と哲学を体系的に追ってきました。
ここまで分析してきて思うのは、HoYoverseは単なるゲーム会社ではなく、「新しいデジタル生活文化」を設計している集団だということ。
原神で世界を旅し、スターレイルで物語を追い、そしてZZZで日常を過ごす──。
もしかしたら我々は、彼らが描く仮想生活圏の黎明期に立ち会っているのかも。
開発している会社を知ることで、今遊んでいるゲームがもっと面白くなるかもしれません。
ゲーム大学では、今後もゲーム業界における知的エンタメを目指してコンテンツを作成していきます。
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どうも、ユウ吉(@GAMEWALKERZ)でした。
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